2013-01-13から1日間の記事一覧

青春晩鐘

通り過ぎて振り返れば その季節の短さに 人は黄金色の枯葉をみるだろう 青春とは 振り返って気がつく 夕映えの晩鐘なのかもしれない 懐かしい学生街の 懐かしい古本屋の 妙に暖かい活字たちよ 君たちのページの中には いつも 黄金色の枯葉がはさまっている …

鮮やかな場面たち

忘れられない場面が いくつもいくつもあった だから今だって 日比谷を通ると胸が温もる 春雨に濡れた公園で やるせなく敗れた恋とか 木枯らしのベンチで聞いた 思いやりのある友達の言葉とか コンサートの帰りに やっとの思いで告げた愛の台詞とか ひとつひ…

私は風

四万四千平方メートルの生命感 私はこの公園が好きです 早朝のもやの中で 走る少年に恋したり 昼下がりの陽光を受けて 散歩する老夫婦に呼びかけたり 日暮れには淋しい少女に わざと冷たくしたりするのです 私は風 四万四千平方メートルの公園を いつもパト…

秋の春情

おだやかな秋に 明日は上野に行こうと 君を連れ出した 公園をめぐる季節の 限りない記憶のかけらが 落ち葉のように散り始める多分あしたも空は晴れ ぼくらは無口に愛を語り 動物たちに会い 乾いた道を歩くだろう 子供のように手をつないで遠い春に出会い 秋…

明日になあれ

まねのできない優しさで 若い父と母は子供を見つめる 池を映す瞳の色には 暮らしを思いわずらう気配もなくまねのできない賑やかさで 少女たちがさえずりあう 豊かな未来が待つような とりとめのない急ぎ足寒い春の日差しにさえ 日焼けしそうな気がするのは …

海の子

水平線をみてしまったら だれもが海の子になる海の子は 大切な無数の思い出たちを 渚に捨て始める夕陽が水平線に沈むのを見ると 捨てるということが 少しも哀しくないことに気づき 明日という日が 必ずくるように思えてくる海の子は 心がひろびろとしてきて…

語りつくせぬ愛のように

語りつくせない愛があれば もう言葉などいらない そしてぼくらは無口になり 大自然の一部のように生きよう海と空といくつかの島影が なぜこんなにも溶け合うのか そしてぼくらは無口になり 眺めの中にうもれていく僕らの愛を 言葉や思惟で飾るのはよそう 今…

清流

清流の音が激しくて 心を洗うみたいだから 「行ってみようか」 あなたが誘った渓谷の滝 紅葉色に染まって とめどなく流れる水音に あなたの声も消されがち「・・・?」 「・・・!」ほんとうは あなたの愛の言葉を聞いて ちゃんと答えるつもりなのに 美しい…

風がうまい

今日は木の実のような少年に 会いそうな気がする 人のいないせせらぎで 木の実は一人で遊んでいるな渓谷の大きな岩にまたがり やめていた煙草を 思いっきり吸ってみようかな それとも岩陰で 少年みたいに小便をして 口笛を吹いてみようかな心が軽いのだ 人生…

ためいきの道

この道をいくと 誰に出会えるのですか この道は どこへいくのですか 木漏れ日は 素敵に哀しい影をつくり 落ち葉を踏む足音は ため息に似た優しさですこの道をいくと 淋しい人に会えますか その人は私と同じ足取りで 向こうから歩いてきますか だったら私 こ…

花枕

花は二人の やすらかな故郷 花を枕に寝転んで 幼い日に再開しよう幼い日はふたりの 暖かい故郷 花の下で無口になって もう一度愛を語ろうあの日には新しい花が舞い あの日には新しい微笑みが湧き あの日には新しい出発がある花はつぶやいている ふたりの幸せ…

別れから明日へ

冬から春へあるいた径を 夏から秋へあるいた径を 君はもう忘れてしまったか 色だけ変えるけやきの並木は 追憶を塗りかえはしないのに秋のかげろうのように 足早に通り過ぎた人は とても悲しそうにみえたけれど あれは君ではなかったか スカートの裾に枯葉が…

葉の調べ

古き洋館の蔦の葉よ ただ懐かしき生命力 窓辺よ 思い出の住むロマネスクの光 空よ 哀しみに似た薄曇りの絵風よ 心を運ぶ四輪馬車 恋人たちよ 埋もるに足る深々とした静けさよ ああ、妙なる草の調べよ かさこそと柔らかく 人々の秋に積もれ

花折りびと

咲きたての花を折る少年を ぼくはなぜ叱ってしまったか たとえひそかに手折られても それが花と少年の愛ならば 花に哀しみはなかったろうに咲きたての花のようなひとに 手も触れず唇もかわさず それが心の愛だなどとは なんと勝手な言い草だろう 悲しみなが…

人いきれ

人いきれは 暖かくて少し哀しい 人いきれは 平和だけど少し淋しい どうしてだろういろいろは人がいるのだ お金を沢山もった人 友達のいない人 陽気な人 今日仕事をなくした人 つれあいを恨んでいる人 愛情でふくれた人ボロ市の人いきれは いろいろな人生の人…

公園の真珠

昨日あなたは公園にいたか そして一粒の 真珠のような風景を拾ったか‐意気地なしの子供がひとり 初めて自転車にのれたのだ 暗く湿ったその子の世界に 急ぎ足で青空が現れた ‐捨てられたコーラの缶に その子の小さな雄叫びが刻まれ 春風に舞う紙くずが その時…

おまつり

一粒の涙が胸をつらぬき 惜別の情が ぬくもりを呼び覚ます空港のざわめきが なぜか優しいのは 無数の小さなぬくもりが 幾重にも寄り添うからだ旅立つ人、見送る人 旅から帰る人、迎える人 孤独な人、陽気な集団この優しいざわめきは 人の住む故郷のまつりに…

精霊

恋人よ・・・ あなたが去った今も 花は春になると咲きます 繰り返し、繰り返し あなたが花の精霊であったと 私に告げているようです恋人よ・・・ 川岸を歩いた思い出の上に 暗い明日を語った季節の上に 花はもう散っています あなたのすべてを埋めるように …

幸福

いつも幸せを 幸せだけを夢見ていたいなら 池の美しい庭に来るといい 小径をめぐり 水に映る静けさを眺めるうちに 心は安らかな寝息をたてる あの幼い頃に苦しみなど何も知らないころに この風景を心に染めていたら 私には今でも 幸福しかないだろう 汚れた…

夢の橋

歴史が夢を見ていた頃は あなたは生まれていなかった 歴史が悲哀をうたったころも あなたは生まれていなかった それなのになぜ あなたはこの橋が好きなのか橋自身の思い出も 幸せだった時代にも 深い緑を染める木とも 何一つ関わりがないのに あなたはこの橋…

陽だまり

恋人たちは振り向かない 公園のその先には 賑わう街があるのだから 誰も気がつかない 陽だまりにさむざむと 立ち尽くしていた娘に親子連れは仲良しで 笑いこぼして歩いていく 赤い実をくわえた小鳥にさえ 誰も気づかない 待ちくたびれた娘の涙を くわえて飛…

東京・ふるさと

吹き去った風がまた 還ってくるような朝がある 同じような匂いをのせて 同じような冷たさを含んで季節をめぐる風たちは 永遠の旅人なのかもしれない けれでも彼らに聞いてみれば 遠い昔のこの街のことや 住んでいた人々の息遣いが よくわかるかもしれない今…

藤色の娘

心の美しい娘ほど すぐに汚れに染まってしまい 小さな汚れに傷ついてしまう だから君はこの街で うつむきがちに生きてきたのかでも君は知らないだろう 朝早くにこの街が 美しい藤色に刷られていることを そして大都会の匂いに混じり ひっそりと 藤の香りが漂…

牡丹の里

花よ、お前が明日開くなら 遠い初恋のうたを作ろう 牡丹よ、お前が僕を呼ぶならば 夜明けに訪ねて行ってもいい あくせくと生きることに 倦きたなんて言わないから 安心してくれ 花よ、お前は忘れていないか? かつてここで契りあった声を 牡丹よ、お前のあで…

水の故郷

あの水たちに 故郷があるならば それはどんな風景だろう 水の母が水の子を作り 水の子達が水の村を作る それはどんな風景だろう水の故郷には いつも風があるだろう 水と風は仲間になり 朝霧と夕暮れが訪れ 樹々の梢の先からは 雲までが友達の顔をする水の故…

潮の故郷

かもめたちは飛び去った 若者たちも消え去った 風化した貝殻たちは ほっとため息をついて 潮鳴りをきく そしてまつりが近づいてくる潮のふるさとに 少し悲しげな太鼓が響き 忘れてしまった思い出のように 老いた歌声が流れる ・・・わしにも逢いたい人がいる…

愛の場所

あなたにみつけてもらうまで 私は誰だったのかしら 冬の梅の香りのように その辺に漂っていただけだものできるならあなたと あの境内に行きたい だって私は梅の群れの 目立たない香りだったから愛されることは素敵ね 曇りがちなこの街の空が 近頃とてもよく…

あこがれ

淋しいね・・・ 青春とは明日が見えない季節で 通れはしない門だと分かっていれば はなから 寄り付くこともなかったのに哀しいね・・・ あこがれに揺れていた頃は 手に入らない聖少女を思うように いつもあの門だけを心にためて それだけが生きがいなどと思…

愛の橋

小さな胸には余りある 重い悩みがあるならば 一度あの橋へ連れて行こう 鏡のようなきれいな湖水に 春は桜が浮かび 秋は紅葉が風に流れる橋の上に立って 思い切り手紙をちぎったら 涙と一緒に散らすのがいい ひとつの愛の終りには 冬でもないのに雪に変わり …

歴史調のバラード

繰り返さなくなった歴史は ネジの壊れた時計のように 飾っておくしか能がない 開かれているのに閉ざされて 覚えているのに忘れられて繰り返さなくなった歴史は 女でなくなった女のようで 厚化粧をしているのに 化粧をしていないように哀しい それは美しけれ…