早春

美しい早春は
不幸だったふたりに
優しい肌寒さを贈るだろう
芽生えたばかりの堤防の雑草が
遠慮がちになぐさめてくれるだろう
死に急ぐことはありませんよ、と

美しい早春は
古いカーディガンをひっかけて
対岸の遊園地の楽隊に合わせて
堤防のフロアで円舞曲を踊り
傷つきながら生まれてきた日々に
さりげなく別れてしまおう

美しい早春は
ちいさな望みを抱くために逝き
明日をまさぐるために昏れる